俳句、来るべきもの(生きものに)

あなたはどう思いますか。

 

生きものに眠るあはれや龍の玉 岡本眸

 

「龍の玉」は竜の髭《ひげ》という庭の下草の実。この草はその名のとおり竜の髭を思わせる葉の間に、冬、瑠璃のように青く艶やかな玉の実を結ぶ。「龍の玉」から本物の「眠れる龍」を想像してもいい。今、作者はそうした動物や人間すべてを心において、生き物というものは眠るものなのだと改めて思ったのだ。何と深く安らかな眠りの句だろうか。

 

[#地から1字上げ](四一頁)

[#地から1字上げ](長谷川櫂、国民的俳句百選、講談社、2008年)

 

生きものに眠るあはれや龍の玉

 

この句を「朝」の誌上座談会で取りあげてくれたのは有難かったが、出席者がこの「生きもの」は捨猫とか犬とか、いろいろ苦労して鑑賞しているのを読みながら、何だか申しわけないような気がした。何ということはない、生きものは生きもの、生命のあるもので、人間をはじめ動植物すべてである。強いていえば、自分を通して見る「生きもの」すべてを指しているつもりなのだが、そう読めないとしたら、私の作句の未熟さ故である。一句のテーマは「自愛」。冬期、濃緑の葉がくれにひっそりと息をひそめる青い「龍の玉」には、それに通ずる風情がある。あるいは即きすぎかもしれないが……。昭和六十一年作、『矢文』。

 

[#地から1字上げ](自句自解、二六四頁)

[#地から1字上げ](岡本眸、栞ひも、角川学芸出版、2007年)

 

生きものに眠るあはれや/龍の玉 岡本眸

 

すべての生きものの中に眠っている「あはれ」が形になるとすれば、きっと、こんな青い「龍の玉」のようになるのではないだろうか。

 

[#地から1字上げ](即訳)

 

 

昼寝より覚めしあはれにしばしゐる 狩行

 

私はこの句が好きである。昼寝より覚めたときの混沌とした状態は生きものの「あはれ」としかいいようがない。「あはれ」という使い古されたような言葉の新鮮な働きに驚いている。

 

[#地から1字上げ](二三五頁)

[#地から1字上げ](岡本眸、栞ひも、要約)

 

みかげ、ぼくのことはかまわないで

自分の将来のこと、

自分が大きくなることを考えればいいじゃないか

あのときだってそうしたじゃないか

時は流れているわ

雄一、本当のことを言って

私がヨーロッパに半年も行って寂しくないの

私が今必要じゃないの

 

[#地から1字上げ](映画・キッチン)

 

生きものに眠るあはれやナポレオン 落首